いちばんの復讐

この空の下、かつて愛した人がいる。


別の女性を選び、結婚したあなた。

あんなに尽くしたのに選んでくれなかったと、

若かったわたしは、あなたを恨んだ。


よくあの奥さんを選んだね。

どこが良いの?

ダメな所が良いの?

彼女もよくあなたを選んだわね。

浮気ばかりしている所が良いのかしら?

わたしを選ぶと言っていったん別れたくせに、またよりを戻してよく結婚までしたわね。

信じられない。


何となく想像がつくけれど、

あなた達は相変わらず貧しく、転職ばかりしているのでは?

相変わらず狭いアパート住まいで生活費も毎月ぎりぎりなのでは?


わたしはあなたに散々振り回されて、痛い目に遭い、悔しい思いをし、

駄目男はもう嫌だと学んだよ。

だからこそ、稼ぎの良い出世街道まっしぐらの男を選んだわ。

夫は優しくて穏やかで、子どもたちのことも可愛がってくれるし

わたしにも寛大で、気持ちよく養ってくれるし、

新築の大きな持ち家に住み、ご近所にも羨ましがられる毎日よ。


三人の息子達も優秀で、

それぞれ一流大学を卒業、大企業に入って良い役職と年収を得ているし、

三人とも良いお嬢さんを嫁に迎えて、良い家庭を築き、

明るくて可愛い孫たちにもたくさん恵まれたし、

わたしは今も安心して奥さんをやっていられる。

働く事なくね。


毎年家族揃って海外旅行にも行くし、

ママ友達と歌舞伎やミュージカルを観に行ったり、豪華なランチを楽しんだり

高級ブランドの洋服や着物をまとい、隙なくおしゃれしたり、

しょっちゅう美容院やエステサロン、ネイルサロンにも行くし、

おかげで年齢の割に若く綺麗と褒められるし、

とっても楽しく過ごしているのよ。

もしあなたと結婚していたら、決してこんな優雅な生活ではなかった筈。

 

今日だって私の還暦の誕生日を祝う為に、家族全員が集まってくれているのよ。

うちの広いリビングにね。

 

九人の孫たちは広い庭で遊んでいるわ。

池には鯉が泳いでいるし、桜の木も松の木もあるのよ。

 

ガレージには三千万円の外車が二台もあるし

家政婦を四人も雇っているのよ。

わたし、家事はしなくていいの。

家政婦にも夫の部下たちにも奥様って呼ばれているの。

 

まるで絵に描いたような素敵な人生を送っているのよ。


だからわたし、悔しくないわ。

全然悔しくなんかない。


あなたの奥さんは、わたしの代わりに苦労をしているのね。

今頃は、しわくちゃのお婆さんになっているでしょうね。


あなたは厄介な奥さんを抱えて苦労しているのね。

今頃は、禿げたお爺さんになっているのでしょうね。


だから悔しくないわ。

わたしの勝ちよ、勝ち!


いちばんの復讐は幸せになる事だものね。


あなた、ざまあごらんあそばし。


ふんっ。